もくじ>詩>岩本敏男詩集>一九五二年作品>時計
時計
柱時計をはずして
縁に出てほこりをはらった。
錆びたゼンマイや振子が
葉蘭(はらん)の葉に
力ないほどけた音をたてて鳴った。
母は もめんぶろしきに
柱時計を寝かせて包んだ。
<兄よ おまえは戦死してしもうたが
おれにはまだ こんな病人の大きな息子がのこって
おって
どうなろうぞ>
酔っぱらった父は はいずりまわって
仏壇のカネをたたいて
板の間にうつぶせて
うごかなくなってしまった。
しみた壁をとおして
隣の中学生が
リーダアの暗誦をはじめた
<ワンス アポンナ タイム>
時計のあとの むしくいの柱に
ちいさな百足(むかで)が走るように出てきた。
番傘をさして、母が出て行った。