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黒い糸

家の六畳と三畳に
きょうも黒い布をしきつめて
母は糸のもつれをほぐした。
おれは窓ぎわにいて
かたいパンをかじっては
糸車のハンドルをまわした。

裏の日向に
ひっくりかえった万年青(おもと)の鉢。
両腕をとられて
物千にぶらさがる菜っ葉服。
(耳のとおい父は)
(清掃車を引いて)
(どこまでいっただろう)

低い屋根の下で
おれと母と
枠にからめていく
一本の黒い糸。
(痰にからんで)
(はげしく喉が鳴る)
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