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犯人

みろよ
その日の新聞から
仕立ばさみで切り抜いて
ボール紙に貼りつけてもっている
この写真を。

これは
強盗犯人の写真でも
造船疑獄の代議士のでも
また 天皇のでもない。
これは あの日
仙台高等裁判所に
法服で
日本国憲法をふみにじって
「見解の相違です」とうそぶく
「神のみぞしる」と微笑む
殺人犯人
鈴木某!

みろよ
その日の新聞から
やはり切り抜いてもっている
胸の内ポケットの
この写真を。

二十名の
まだあったことのない友の顔は
苦しみにたえて
おれたちをみつめてはいないか
「真実を!」と呼びかけてはいないか
いまも。

おれたちは 工場の
コンクリートの塀に
塀よりすこし高い
アカシヤの木の下に
唖ではなかったはずだ。
目と耳と口を
その目にみて その耳にきいて たしかめて
あの日 冬至の日から
夜はいっそう長く
そこに深く重く沈んでいった真実を
殺人犯人鈴木某の手から
友の おれたちの手にとりもどすまで
目から耳から口から
目へ耳へロヘ
どもってもいいのだ
しゃべりまくらなければ
「見解の相違です」と
「神のみぞしる」と
いつおれたちの肩に殺人犯人の手がふれかかることか。
そしていま おれたちが唖になれば
おれたちも
犯人ではないか
どうか。

みろよ
陽にかざして
この二つの写真を。
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