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山
――言葉よ、山を、エヴェレストのように――
いただきは
雲が巻きついているのか・・・
雪が吹きつけているのか・・・
二九〇〇ニフィート
氷と岩の山
エヴェレストは
銀色にかがやいてみえたが
ふもとの
メムチェ・バザーの村には
サウス・コルの
なだれの音はきこえない
しゃくなげの花が咲いていた
きびでつくったチャンという酒もあった
よごれた赤いショール
裸足の女の子は
ふしぎそうに
遠征隊の隊列をみていた
「なぜ あの山へのぼるのかしら」
「なぜ のぼらなければならないのかしら」
おさない首をかしげている
その女の子に 彼女に
一九二四年
頂上まで一〇〇〇フィートをのこして
消息を絶った
ジョージ・マローの言葉を
きかせてみるがいい
「なぜなら それはそこに山があるから」
彼女は白い歯をみせてほほえみはしないか
しゃくなげの花を髪にかざって
隊列のあとを追いはしないか
そして ぼくらはなんといおうか
「なぜなら それは人間だから」
と いってみようか
この言葉に
彼女は
ぼくらと手をつないで
ぼくらの 働く者のための 人間の
平和と名づけて
高さも距離もはかりしれない
世界の屋根へ
道はとざされてじぐざぐの
アイス・フォールをいくだろうか
彼女は 小手をかざしていうだろう
「山はどこ どれなの」