もくじ>詩>岩本敏男詩集>一九五二年作品>だれかに言いたい
だれかに言いたい
だれかに言いたい
だれかを呼びたい
<にっぽんの>路地のすみのこの家に
ここに私がいることを
ここに私もいることを
そして 私は
人間のにおいを 息を 汗を かぎたい
肩にふれたい
手をとりたい
夜の壁にむかっている
母と私と二つのかげ
天井に折れて
天井をはう細い二つの首
畳をはう
こごえた手のかげ
ふるえる 針をはこぶ手と
マッチ箱のレッテルに糊をつける手と
だれかに言いたい
だれかを呼びたい
<にっぽん>の路地のすみのこの家に
ここに私がいることを
ここに私もいることを
私は言ってみた
私は呼んでみた 母を
ここに私といる母を
「かあちゃん」と
私は母を 母は私の
においを 息を <人間を>
さむい夜明けにかぎあった