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未来

 まして、愛についてはむなしく、よめさんなんかもらわなかったほくだから、ひとりであおい星のよるに、あたらしい世紀を生まれた、すなおな巨象にまたがって、まことにはるかな曠原を、どこまでかすすんでゆくのだった。ぼくはみちみち、生きていて、いかに平和の困難であったかを、かれに語ってきかせたが、巨象は平和という言葉のすでにないことを、しずかに告げるのだ。ぼくはどきんとして、そんならばもういちどかえりたいよと、かれの耳もとにつよくささやいた。けれど巨象はあるいて、おれたちだって、こうしてかたい鉄の靴をはいているんだ。おれたちだって、この原始を、やがてあらそうことのためにすごすのだろうよ。ぼくはうつむいてなにも云わない。星はくらげほどのひかりになって、砂礫のくずれる音が、かすかにしていたのだ。
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