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えんとつ

 じりじりと焦げた髪から、焼けぶくれて積み重なった死体から、突き出た骨の手から、かすかなかすかな煙が、かげろうのように立ち上がって、とろけてながれ出た目玉が、真昼の空をみていた。
 白いちいさな墓標が無数にならんだ場所へきたとき、ぼくは美しいと思った。ぼくの目には、それが世界の果てまでつづいているようにみえたのだ。もう誰もいない。
 そして、兵器工場から、眠らずにただ歩いてかえってきたぼくは、ぼくの住所と番地の上に立っていた。靴の下で、父なのか母なのか、なにかがくすぶりつづけていた。えがらっぽい煙の中で、一つ二つくらい影がゆれてうごいた。誰?
 うずくまって、おしだまって、誰かが焼け残った鉄骨を堀り出していたのだ。
 誰? ほどけたゲートルが足にからみついて倒れたぼくが、つかんだ灰は、まだ熱かった。灰にまみれてぼくは眠った。
 煙突。あの日は、地上が煙突だった。

 いま、ぼくらは煙突をあおがねばならない。煙が空になびくのを。煙が空に消えるのを。
 あの煙はなんだろう? きょう、彼らはなにを焼いたのか?

 できることならぼくは、ノコギリを腰にさして、世界一周旅行がしたい。そして、世界中の煙突を、一本残らず切り倒して歩きたい。