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えいご

きみたちは やがてリーダーをひらいて
Spring has come.(春がやってきた)
と 先生のあとから 声をそろえて読むだろう

Spring has come.

ああ 赤毛のキャシーがささやきかけるようで
のっぽのジョージが呼びかけるようで
きみたちは 校庭のさくらの木の毛虫のように
体をよじって
うっとりするだろう

Spring has come.
Spring has come.

そして ぼくの英語は
中学五年生の春に終わった
一九四四年の春に終わった
アルコール中毒だという うわさのあった先生は
教室へはいってくるなり
「英語は 敵性語だから 本日で授業は中止」
それからくるりと背をむけて
黒板一ぱいに よろけながらこう書いた
Spring will not come again.
(春はもう ふたたびやってはこないだろう)

Spring has come.
Spring has come.

きみたちは読む
きみたちはうたう

だが 春はやってきたのだろうか?
春はやってくるものだろうか?