もくじ>詩>岩本敏男詩集>一九五四年作品>ぼくらは人間だから
ぼくらは人間だから
一センチの水も上げない噴水塔を背中に
ぼくらは防空壕の暗い入口にむかって
わらくずのまじった かたいパンをかじっていたが
それがかたいパンでなくても
十八のぼくは
<愛>という言葉に
のどぼとけが痛くなっていたのだ。
だが ぼくらはそこに
二人だけで
さむがってはいたが
ぼくは男だったから
もんぺをはいてふるえている女学生のきみだけを
すぐに好きになるのはいやだった。
ゲートルを巻きなおした
ぼくの手は
きみの肩にふれず
つめたい空気を抱くようにしていた。
いって三月(みつき)。
ぼくは戦争から
生きてかえってきた。
動貝先の工場で
ほうたい巻きをしていたきみは
死体もわからずに死んでいた。
炭になって死んでいた。
……ながいあいだ ぼくは
煙突をみることができなかった
煙が空になびくのを。
じりじりもえていったきみの髪が
においが
ぼぐの目を鼻をふさぐのだ。
そして
<おお ひろしま ながさき――>
それはきみのためにだけではなかった
もんぺをはいてふるえていた女学生の
きみ一人のためにだけではなかった。
皮をはかまのようにたれて
ゆうれいの行列をして
水をほしがって
死んでいった幾十万。
ぼくはいま二十七
二等兵の星一つをつけた胸の血を
咳こんで
のどにつまらせて
ぼくはいまでも
きみと
きみとぼくのためにうつむいて
二人でいた 公園の冬の日を忘れはしないが
げんばく 九年目
あ ビキニ
その死の灰の降りかかる日――
おびただしい死が頭上に。
ついには世界の死が地上に。
<あきちゃん!>
いまこそこの手にきみを愛して
ぼくは人間だったから
ぼくらは人間だから
憎しみをもこめてこの手を
もっとおおくの友に
さし出さなければ!